「吉村岳城 琵琶読本」不定期連載 初めに〜

吉村岳城 昭和26年
(吉村岳城精華集より)

はじめに
「琵琶読本」とは薩摩琵琶の吉村岳城[1888-1953]先生が昭和8年7月に上梓した広く琵琶に関する読み物です。その多くは昭和5−7年頃にかけて朝日及び読売新聞一般紙上にて連載していたコラムをまとめたもので、出版されてからはや84年以上が経過しています。時折古書市場に見かけても価格2万円以上、決して入手し易いものではありません。そこで戦前の旧仮名使いを現代に直しつつここに載せていきたいと思います。昭和初期当時琵琶に関する記事が朝日・読売という一般紙上に連載されていたという事をみても戦前いかに琵琶が隆盛を誇っていたかという歴史的証左として価値のあるものと思います。 八戸にて 記 藤波白林
以下記事より

緒言
「琵琶もなかなか盛んになった」という言葉はよく聞くが、然し他の社会の人はいざ知らず我々棋道に携わる者は、この言葉を鵜呑みにせず一歩退いて考えることを、お互いに忘れてはならないと思う。「盛」という言葉の中には「流行」と「隆盛」との二つの見方がある。流行とはあいも他人のそら似の如きもののように思われる。ちょっと見れば似ていても、その内容に至っては甚だ距離がある。
流行は平面的で、通俗的なものである。
隆盛は立体的で真の大衆的である。
私は立体でなければ「盛」という言葉を使いたくないのである。
しかしながら、平面的といえども決して一蹴し去るべきではない、平面は立体の基礎である。如何に立体的のものが価値があるといっても平面の基礎がなければ成り立たない。無理に拵えてもそれは笠を広げたようなもので、甚だ心細い貧弱な形である。
形以上の盛りとか、形以下の盛りとか言い出すと、話が甚だやかましくなるし、それでは初期の目的たる「平易に」ということに反するから避けるが、要するに私は立体的発達を望むが為に自分の経験やら、個人また先輩の言葉、または意見などを並べて、諸君のご参考に供する次第である。

    ○

博く学び、審に問い、慎で思い、明に辨へ、篤く行く (中庸)

    ○

近きを以て遠きを知り、一以て万を知り、微を以て明を知る (筍子)

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以下続く

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