[琵琶読本] 弾法譜本を利用せよ

弾法譜本を利用せよ
 極めて小部分の人ではあるが、「弾法譜本を用いるのは実力の点では考え物である」と言って用いない人がある、しかし私はそうは思わない。これは、その本を用いる人の考え次第であって、一口に一蹴し去るべきものではないと思う。

 私がまだ稽古に通っていた時分には、正派には弾法譜本はなかった。だから教わるのにはなはだしく骨が折れた。また帰宅後の復習にもちょっと忘れた点などがあると大いに困ったものであった。その後、自分が人に教えるようになってから門人の骨折り、自分が教える時の不便などで、是非弾法の譜本が必要だと痛感したので断然私は弾法の譜本を作った。その後、今日では正派でも大概の先生方は譜本を用いているようになった。

達者より正確
 例えば門人が欠点を直してもらうために弾いている、それを聴いていて、あっ、そのところの点が悪いっ と注意の言葉を用いる間にもうさっさと先の方を弾いていて、当人にはどこが悪いのか分からないという具合である。もしこの時、弾法の譜本を用いていると、ここが悪いとすぐ指摘できる。よく弾法は上手な人でありながら歌に合わせて一向に応しくない人があるが、これらは弾法練習の時の観念が間違っていたり、または無知な練習の為である。
 それから練習の歳は決して焦らずに、ただただ正確に正確にと心がけて練習することが肝要である。達者に弾くように練習する人もあるが、これは初歩のうちは止したほうが間違いがない。初めは常に落ち着いて、正確に正確にと練習し、出来るようになってから達者になる練習をするとはなはだ効果的である。もし初歩のうちから達者に達者にと練習すると、私の知っている範囲では全部が悪達者になっている。そして軽薄な要領使いになりさがる者がはなはだ多い。上手だなぁ、と感心する人は一人もない。

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歩く前に這う事を習え

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