錦心流錦琵琶規則(昭和3年)

錦心流錦琵琶規則の冒頭(昭和3年)

以下は戦前の錦心流機関誌「水聲」昭和3年新年号に掲載された錦琵琶の規則です。勿論現在は無効ですが当時の雰囲気、状況を知る資料として公開致します。

※現代かなに直してあります。

第一章 宗家規範
第一条 錦心流錦琵琶は仁義忠孝の精神を鼓吹し家庭音楽の基礎たらしむるを以って目的とす

第二条 錦心流錦琵琶の構造、調子、並びにこれが歌、歌の曲譜は水藤錦穣の創作に係るものにして錦心流宗家故永田錦心師は之を錦琵琶と命名し、生前すでに錦琵琶を以って永遠に伝うべきことを下命せられ、錦心流の歌曲演奏の伝授並びに之が相伝証の発行を許可し、その宗系たる事を証せたるものにして現錦心流宗家(永田家)より錦心流錦琵琶の宗家たる事を承認せられたるに依り、ここに故師の遺志、偉業を継承するため水藤錦穣を錦心流錦琵琶の宗家となす

第三条 錦心流錦琵琶宗家は前条の理由に基づき錦心流事務所が錦心流宗家(永田家)に納入する許、免状料と同額の許、免状料を永田家に納入するものとす

第四条 錦心流錦琵琶の名称は宗家水藤家の許可なくして之を使用することを得ず

第五条 錦心流錦琵琶の弾法及び歌の曲譜は宗家水藤家に於いて之を発行す

第二章 宗家事業及び本部組織
第六条 錦心流錦琵琶宗家本部を東京市本郷区切通坂町36番地に置く

第七条 本部は錦心流錦琵琶の教授を為し之が普及発達を図り、第一条の主旨に基づき時世に順応する家庭音楽として思想の善導に貢献するを以て目的とす

第八条 本部は左の役員を置く
総務   1名
理事長  1名
理事   若干名
庶務会計 1名

第九条 役員の任期は1カ年とす、但し重任を妨げず

第十条 総務は宗家の使命に依るものにして宗家を補佐し錦心流錦琵琶に関する一切の事務を総統す

第十一条 理事長は会員中より宗家之を指名し宗家並びに総務事故ありたるとき事務を代行す

第十二条 理事は宗家、総務及び理事長合議の上会員中より之を推薦し会議に参興して錦心流錦琵琶の利益を保持するを本文とす

第十三条 庶務会計は理事中より推薦し常に庶務、会計の事務を掌るものとす

第十四条 役員にして不都合の行為ありたる時は任期中といえども宗家之を免ずることあるべし

第十五条 本部は第七条の目的並びに会員間の連絡と親善を期する為、錦心流機関誌「水聲」中に諸事を記載発表す

第十六条 錦心流錦琵琶は柱の数に依り四柱、五柱の二種に分かち楽器は総て宗家指定のものに非らざれば之を使用する事を許さず
但し四柱の楽器は当分の内随意とす

第十七条 宗家は錦心流錦琵琶の歌曲を創作し之を相伝して其の修得者に相伝証を発行す

第三章 許、免状及び教師
第十八条 宗家は左の順序に依り許、状免を授興す
一、初伝 二、中伝 三、奥伝 四、皆伝 五、総伝
但し初伝、中伝は当該教師之を試験し、奥伝以上に係るものは宗家に於いて適当なる方法を以て試験の上許、免状を授興し総伝は絶対に宗家の鑑識によるものとす

第十九条 宗家は中伝者に雅号の一の字を、奥伝者に櫻号を授興し、皆伝者には号として錦山号を贈興す

第二十条 技量優秀なりといえども一カ年以上修行したるものに非らざれば奥伝をせざるを原則とし、特に優秀なる者は此の限りに非ず
但し第十八条の順序を厳守すべきものとす

第二十一条 奥伝以上の者にして教師希望の者は当該教師の承認ある申請書を提出し宗家の試験を受けるべきものとす

第二十二条 宗家は教師試験の合格者に対し教師免状を授興し一定の教授所看板を交付す 但し品行とかくの批難ある者に対しては技量優秀なりといえども教師免状を下附せざることあるべし

第二十三条 教師やむをえざる事情により代教授をなさしむる場合は奥伝以上の資格者にあらざれば之を許さず

第二十四条 宗家の発効する許、免状にあらざれば其の効を認めず

第二十五条 宗家の発効する許、免状並びに相伝証を受けんとする時は申請書に規定の料金を添え納入するものとす、但し試験に合格せざる場合は之を返戻す

第二十六条 許、免状その他既納金圓はいかなる事情ありといえども之を返戻せざるものとす

第四章 会員
第二十七条 会員たらんとするものは宗家の定める入門願い並びに誓約書を提出すべし

第二十八条 奥伝以上にあらざれば入場料を徴収する公会の席に於いて演奏すること得ず 但し当該教師の承認ありたるこの限りにあらず

第二十九条 有伝者にしてやむを得ざる事情のため教師を変更せんとするときは前後の教師の了解を得るべきものとす

第三十条 会員は常に錦心流錦琵琶の演奏家として品位体面を保ち相互の親善を期すべし

第三十一条 演奏会開催に当たっては虚伝、誇大卑俗の広告を禁ず

第三十二条 宗家より除名せられたる者と同席出演することを禁ず

第三十三条 会員は別派を組織し新たに錦心流錦琵琶の宗家並びに宗家類似の名称を名乗ることを許さず

第三十四条 会員は宗家発行の歌曲並びに弾法図解につき修行すべきものとす

第三十五条 有伝者の女子にして公開の席に出演するものは必ず宗家規定の玉衣を着用すべきものとす、但し初伝、中伝者はこの限りにあらず

第三十六条 本則に違背し又は宗家の主旨に反したる行為ありたる者は破門し、免状、雅号、称号看板等を有するものは之を返還せしむるものとす 但しこれらに対する一切の既納料金並びに謝儀は之を返戻せず

第三十七条 本則は理事会の決議を経るにあらざれば変更又は改廃することを得ず

第三十八条 教師規則は別に之を定む

第三十九条 宗家及び奥伝以上の出演料は理事会の決議を経て之を発表するものとす

第四十条 本則は昭和三年一月一日より之を施行す

錦心流錦琵琶教師規則
第一条 教師は宗家の主旨を重んじて其の門人を教導し錦心流錦琵琶の向上発展並びに普及に努むるを以て本文とす

第二条 教授所には教師免状並びに指定看板を必ず掲ぐべきものとす

第三条 教授すべき歌、歌の曲譜は宗家の指定せる区別を厳守すべし

第四条 門人にして初伝、中伝の資格に達したるときは宗家に申請して許、雅号の下附を俟つべし

第五条 奥伝に進級せんとする者ありたるときは奥伝申請書を宗家に提出して其の試験を受けしむべし

第六条 皆伝に進級せんとする者ありたるときは皆伝申請書に当該教師連署して其の試験をうしむべし

第七条 教師希望者ありたるときは教授所を確かめ其の申請書に当該教師の承認を要す

第八条 新たに入門者ありたるときは直ちに規定の入門願い並びに誓約書を宗家に送付すべし

第九条 教師は教師間の親睦を厚うし宗家と連絡を図るべし

第十条 教師は他の教師より不都合の行為に依り除名せられたる者に教授することを禁ず

第十一条 教師は左の場合に其の資格を失するものとす
一、不都合の行為に依り宗家より除名せられたる場合
二、二カ年間宗家本部に音信又は連絡を断ちたる場合
三、本人より申し出ありたる場合

第十二条 教師の教授料は四柱琵琶、五柱琵琶の区別に依り宗家之を一定す

第十三条 教師の収入となるべき許、免状料其の他は宗家に於いて一定す

第十四条 教師は門人を除名したるときは其の事情を具して宗家本部に報告すべし

第十五条 教師は宗家の招集する総会又は代表的演奏会に応ずべきものとす 但し己を得ざる場合は其の理由を具申すべし

◆錦心流錦琵琶許免状料
初伝 金壱圓也
中伝 金拾圓也 (雅号料共)
奥伝 金弐拾圓也(雅号料共)
皆伝 金参拾圓也(称号料共)
四柱教師免状料 金五圓也
五弦教師免状料 金七圓也
総伝は免状料を要せず

右の通り免状料を定む
昭和三年一月一日

◆錦心流錦琵琶教授料
錦調四柱教授料 金五圓也
錦調五柱教授料 金七圓也

右の通り教授料を一定す
昭和三年一月一日

錦心流錦琵琶宗家

※編者注 昭和3年当時 壱圓=1円=今の3,000円程度


錦心流錦琵琶規定書式 ※省略します
書式用紙は総て半紙とす

Posted in その他コラム, 資料集

コメントは受け付けていません。