琵琶歌 城山

西南の役で最期を遂げる鹿児島藩士西郷隆盛を後年勝海舟が琵琶歌に認めたもの。薩摩琵琶の名曲であるが、流派を問わず演じられる。

城山 作 勝海舟

それ達人は大観す    抜山蓋世の勇あるも
栄枯は夢か幻か     大隅山の狩倉に
真如の月の影清く    無念無想を観ずらん
何を怒るやいかり雄の  俄かに激す数千騎
勇みに勇むはやり雄の  騎虎の勢い一徹に
留り難きぞ是非もなき
唯身一つをうち捨て   若殿原に報いなん

明治十年の秋の末    諸手の戦打ち破れ
討つ討たつやがて散る  霜の紅葉の紅の
血潮に染めど顧みぬ   薩摩猛夫の雄叫びに
打散る玉は板屋打つ   あられたばしる如くにて
面を向む方ぞなき    木だまに響く鬨の声
百の雷一時に落るが如き有様を 隆盛打見てほほぞゑみ
あな勇ましの人々や   亥の年以来養いし
腕の力も試し見て    心に残る事もなし
いざ諸共に塵の世を   遁れ出んは此の時と
唯一言を名残にて    桐野村田を始めとし
宗徒のともがら諸共に  煙と共に消えし大丈夫の
心の中こと勇ましけれ

官軍これを臨み見て   昨日は陸軍大将と仰がれ
君の寵遇世の覚へ    比類なかりし英雄も
今日はあへなく岩崎の  山下露と消え果てて
移れば替わる世の中の  無常を深く感じつつ
無量の思い胸に満ち   唯粛然と隊伍を整へ
目と目を見合わすばかりなり
折しもあれや吹き下ろす 城山松の夕嵐
岩間にむすぶ谷水の   非情の声も何となく
悲鳴するかと聞きなされ 衣の袖を濡らし添うらむ。

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